線径という数字は、何を決めているのか
ポケットコイルマットレスのスペックには、「線径2.3mm」「コイル数○個」といった数値が並びます。このうち線径は、コイル1本の硬さを決める最重要パラメータです。
コイルスプリングは、材料力学で式が確立されている部品です。この記事では、その式から「線径・巻き数・コイル径が何をどう変えるのか」を読み解き、スペックの見方を整理します。
コイルばねの硬さを決める式
円筒形のコイルばねのばね定数(1mm縮めるのに必要な力)は、次の式で表されます。
k = G × d⁴ ÷ (8 × D³ × n)
- k:ばね定数(大きいほど硬い)
- G:線材のせん断弾性係数(鋼ではほぼ一定)
- d:線径(線の太さ)
- D:コイルの平均径(巻きの直径)
- n:有効巻き数(ばねとして働く巻き数)
この式から、3つの重要なことが読み取れます。
- 硬さは線径の4乗に比例する:少し太くするだけで、硬さは大きく変わる
- コイル径が大きいと急激に柔らかくなる:硬さはコイル径の3乗に反比例する
- 巻き数が多いと柔らかくなる:硬さは巻き数に反比例する
線径0.1mmの違いは、どれだけ効くか
線径以外の条件(コイル径・巻き数・材質)が同じだとして、硬さの比は線径の4乗の比で決まります。
| 線径の比較 | 硬さの比(k) |
|---|---|
| 2.2mm → 2.3mm | 約1.19倍(約2割硬い) |
| 2.0mm → 2.3mm | 約1.75倍 |
| 1.8mm → 2.3mm | 約2.7倍 |
線径が2.2mmから2.3mmに変わるだけで、コイル1本の硬さは約2割変わります。「たった0.1mm」ではありません。スペック表の線径は、小数点以下の数字まで読む価値があります。
巻き数とコイル径——線径以外の要素
巻き数(n)
同じ高さのコイルでも、巻き数を増やすと、ばねとして働く線が長くなり、柔らかく、ストロークも大きくなります。逆に巻き数が少ないと硬く、変形量も小さくなります。
コイル径(D)
コイル径は3乗で効きます。径が大きいほど、同じ荷重でも線にかかるねじれが大きくなり、柔らかくなります。樽型(中央が太い)や円錐型など、径を途中で変えた形状のコイルは、圧縮するにつれて硬さが変わる「非線形」の特性を持たせるための設計です。
コイル数(1枚あたりの個数)
マットレス全体の硬さは、コイル1本のばね定数に、単位面積あたりのコイルの本数を掛けたもので決まります。同じ線径でも、コイルが密に並ぶほど、面全体としては硬くなります。ただし、コイルが多いほど、1本ずつが体の凹凸に独立して追従するため、点で支える精度は上がります。
線径と耐久性の関係
線径は、硬さだけでなく耐久性にも関わります。コイルに荷重Fがかかったとき、線材にかかるせん断応力は、おおまかに線径の3乗に反比例します。
同じ荷重なら、線が太いほど線材にかかる応力が小さく、繰り返し荷重による疲労が進みにくくなります。「太い線=へたりにくい」という一般的な理解は、材料力学の面でも筋が通っています。
ただし、線が太すぎると、コイルが硬くなりすぎ、体圧分散が悪化します。硬さは、巻き数やコイル径、上に載せる快適層との組み合わせで調整されます。
「線径だけでは決まらない」理由
ここまで、コイル単体の話をしてきました。実際のマットレスの寝心地は、コイル以外の要素も加わって決まります。
- 快適層:コイルの上のウレタンや綿の層。厚く柔らかいと、コイルの硬さが体に伝わりにくい
- コイルの配列:並べ方、エッジ部の補強(エッジサポート)
- ゾーニング:体の部位ごとに、線径や硬さを変えている製品もある
線径2.3mmの製品でも、快適層が分厚ければ柔らかく感じますし、その逆もあります。線径はあくまで「支持層の硬さ」を知るための手がかりです。
ポケットコイルとボンネルコイルの違い
線径の話は、どちらのコイルにも当てはまりますが、構造の違いで寝心地は変わります。ポケットコイルは、1本ずつ袋に入れて独立させ、体の凹凸に個別に追従します。ボンネルコイルは、コイル同士が連結され、面全体で荷重を受けるため、硬めで、振動が伝わりやすい傾向があります。詳しくはポケットコイルとボンネルコイルの違いを参照してください。
スペックの読み方——実例
ページに「線径2.3mm」「厚さ22cm」「トリプルエッジサポート」と記載されたポケットコイルマットレスを例に、読み方を整理します。
- 線径2.3mm:コイル1本は硬め。上記の式から、2.0mmの製品より約75%硬い計算になる(他の条件が同じ場合)
- 厚さ22cm:コイル層と快適層に厚みの余裕がある。底付きしにくい(マットレスの厚さと底付きの科学参照)
- エッジサポート:周辺部のコイルを補強し、端に座ったときの沈み込みを抑える
硬めの支持層に、厚い快適層を組み合わせて、バランスを取っていると読み取れます。
ポケットコイル系の他の製品もあわせて比較すると、線径や厚さの違いが見えやすくなります。
どういう人に「太い線径」が合うか
合いやすい人:
- 体重が重め(75kg以上)で、底付きや、へたりが気になる
- しっかりした反発と、寝返りのしやすさを求める
- 長期使用を前提にしている
合いにくい人:
- 体重が軽く、コイルの硬さが体に伝わりやすい
- 横向き寝で、肩・腰の柔らかい受け止めを求める(快適層が薄いと、圧迫が残る)
まとめ
- コイルのばね定数は、k = G・d⁴ ÷ (8・D³・n)で表される
- 硬さは線径の4乗に比例し、わずかな線径の違いが大きく効く
- 巻き数とコイル径が大きいほど柔らかくなる
- 太い線は、疲労に強く、へたりにくい傾向がある
- 実際の寝心地は、快適層・配列・ゾーニングも加わって決まる
スペック表の線径は、「支持層の硬さ」を読み取るための、数値化された手がかりです。
注記
- ばね定数の式は、円筒形コイルを理想化したものです。実際のマットレスのコイルは、樽型や円錐型、端部の形状などにより、この式どおりには動きません。倍率は傾向を示すための計算値です。
- 応力と線径の関係は、おおまかな傾向として示したもので、実際の耐久性は、鋼材の種類や熱処理、加工でも変わります。
- 本文中の商品の線径・厚さ・仕様は、販売ページの記載に基づいています。測定条件は確認しておらず、仕様は変更される場合があります。


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