「厚ければ良い」は半分だけ正しい
マットレスのスペック表には、必ず厚さが書かれています。10cm、15cm、22cm。数字が大きいほど高級に見え、実際に価格も上がる傾向があります。
ただし、厚さそのものが寝心地を決めるわけではありません。厚さが担うのは、主に「底付きを防ぐ余裕」です。この記事では、底付きという現象を素材の圧縮挙動から説明し、厚さの選び方を整理します。
底付きとは何か——フォームの圧縮曲線から
底付きとは、体重で沈み込んだマットレスが底まで圧縮され、下の硬い面(すのこ、床、コイル層など)の硬さが体に伝わる現象です。
これはフォームの圧縮特性で説明できます。フォームを圧縮していくと、荷重と変形の関係は3つの領域に分かれます。
- 弾性領域:小さな荷重で、変形が荷重にほぼ比例して進む。寝心地の大半はここで決まる
- プラトー領域:気泡壁が座屈し、荷重があまり増えないまま変形が進む。柔らかさを感じる領域
- 緻密化領域:気泡がつぶれ切り、急に硬くなる。荷重が急増する。ここが「底付き」の入口
緻密化が始まる圧縮率は、一般にフォームの元の厚さの7〜8割程度とされますが、材料・密度・配合で変わります。
底付きを感じるのは、体の突出部(腰・お尻・肩)でフォームがこの緻密化領域に入ったときです。
厚さが果たす役割——「残り厚み」という考え方
同じ素材・同じ荷重なら、圧縮される割合(ひずみ)は、厚さが違っても大きく変わりません。厚さが違うと変わるのは、沈み込んだあとの「残り厚み」です。
| 元の厚さ | 圧縮率50%のとき | 圧縮率70%のとき |
|---|---|---|
| 6cm | 残り3.0cm | 残り1.8cm |
| 15cm | 残り7.5cm | 残り4.5cm |
| 22cm(フォーム層のみで換算) | 残り11.0cm | 残り6.6cm |
数字は概念を示すための単純な換算です。実際のマットレスは層構造で、厚さ全体がフォームというわけではありません。ただ、残りの厚みが小さいほど、底の硬い層の影響が体まで届きやすくなるという原理は変わりません。
底付きを決める5つの変数
1. 体重
荷重が大きいほど圧縮が進みます。体重が重い人は、同じマットレスでも底付きしやすい。
2. フォームの硬さ
硬いフォームは同じ荷重での圧縮が小さく、底付きしにくくなります。硬さは、一般にフォームを25%圧縮するのに必要な荷重(N、あるいはILD)で示されます。詳しくはILD値とは何かを参照してください。
3. 密度
密度が高いフォームは、緻密化までのエネルギー吸収が大きく、長期使用でもへたりにくい。ウレタンフォームの密度と品質の関係で解説しています。
4. 下に何があるか
底付きの「底」の硬さも影響します。すのこやベッドの板は比較的均一ですが、フローリングに直置きすると、床の硬さがそのまま伝わります。
5. 層構造
実際のマットレスは、上層の快適層と下層の支持層に分かれています。厚さ15cmでも、上層が柔らかく薄いと、体は支持層にすぐ到達します。総厚さだけでなく、層の役割分担も見る必要があります。
体重別の厚さの目安
次の表は、フォーム系(ウレタン)マットレスの考え方の目安です。製品の硬さや層構造によって大きく変わるため、あくまで出発点として使ってください。
| 体重 | 単体使用の厚さの目安 | 補足 |
|---|---|---|
| 〜50kg | 8〜10cm以上 | 硬めでなければ、比較的余裕がある |
| 50〜75kg | 10〜15cm | 硬さと密度が十分なら、この範囲で足りることが多い |
| 75kg以上 | 15cm以上、密度40D以上が望ましい | 薄いと底付きと、へたりの両方のリスクが高まる |
厚さ別に見る具体例——6cm・15cm・22cm
この3つの厚さは、それぞれ想定される使い方が違います。
厚さ約6cm——敷布団・トッパー向き
薄型は、単体で床に直接敷くと、床の硬さの影響を強く受けます。ベッドやほかのマットレスの上に重ねて、通気性や洗いやすさを足す使い方が向いています。
ブレスエアー3つ折り敷布団(コンフォートリッチ、厚さ約6cm)は、折りたためて扱いやすい反面、床に直接敷く場合は底付き感が出やすい設計です。素材の特性はファイバー系マットレスの素材科学で解説しています。
厚さ約15cm——ウレタン単体マットレスの基準
高反発ウレタンの15cm・密度27Dの製品は、硬さがN(ニュートン)で公開されており、体重に合わせた硬さ選びがしやすい製品です。ページ上で「150N」(やや硬め)と「180N」(硬め)が示されています。密度27Dは、一般的な「30D以上」の目安をやや下回るため、耐久性は5年前後を見込むと安全です。
体重が重い人は、より硬い方(180N)を選ぶと、底付きのリスクを抑えられます。
厚さ約22cm——ポケットコイルの余裕
ポケットコイルマットレスの22cmは、コイル層が厚く、上に快適層を載せる構造が一般的です。コイル自体が荷重を支えるため、フォームのような「緻密化」は起きにくい。コイルの太さ(線径)や巻き数が、硬さと反発を決めます。線径2.3mmという数値は硬さの目安になります。詳しくはコイルの線径・巻き数と硬さの関係で解説します。
厚ければ良いとは限らない理由
厚いマットレスには、デメリットもあります。
- 重い:シーツ交換や、立てかけての通気が大変になる
- 高さ:ベッドフレームとの組み合わせで、寝床が高くなり、乗り降りの負担が増える
- ボックスシーツ:厚みに対応するマチ(深さ)のシーツが必要
- 価格:素材の使用量が増え、高くなる
「必要な厚さ」を満たしたうえで、それ以上に厚くする意味は小さい、というのが素材から見た結論です。
薄いマットレスを補強する方法
すでに薄いマットレスを持っていて、底付きが気になる場合は、次の方法があります。
- 下にすのこ・ベッドフレームなど、面で支える下地を入れる
- 硬めのマットレスの上に重ねる(逆に、柔らかい薄型は下に置く)
- 高密度で硬めのトッパーを追加する(トッパーとパッドの違い参照)
まとめ
- 底付きは、フォームが圧縮曲線の「緻密化領域」に入り、下の硬さが体に伝わる現象
- 厚さの役割は、沈み込んだ後の「残り厚み」を確保すること
- 底付きは、体重・硬さ・密度・下地・層構造の5つの変数で決まる
- 6cmは敷布団・トッパー、15cmはウレタン単体、22cmはコイルの余裕という位置づけ
- 「厚さ×硬さ×密度」をセットで見るのが、スペック表の正しい読み方
関連記事
注記
- フォームの緻密化が始まる圧縮率(7〜8割)は一般的な目安で、材料・密度・配合によって異なります。
- 体重別の厚さの表は、考え方の出発点として示した目安です。実際の底付きは、製品の硬さや層構造で大きく変わります。
- 本文中の商品の厚さ・密度・硬さ・線径は、販売ページの記載に基づいています。測定条件は確認しておらず、仕様は変更される場合があります。購入前に販売ページで最新の情報をご確認ください。


Comments